2012年01月23日

2.ニュージーランドの歴史。

2.ニュージーランドの歴史。

  2-1.NZの島が出来るまで。
この国の稀に見る程の奇跡的な狩猟環境を説明するにはどうしても太古の昔に話を進めなくてはなりません。NZ島は8000万年前にゴンドアナ大陸からオーストラリア(AU)大陸と共に分離しました。その後AUと更に分離したNZは大きな地殻変動により200万年ほど海面下に没し、AUと類似系の動植物生態系はその時に絶滅しました。

それが今から2400万年前に大きな地殻変動により再度浮上し、以後は飛来した鳥とコーモリだけの島となりました。人類がNZに来たのはケタ違いに新しく、たったの1000年程前の事です。つい最近までのNZは鳥類だけの楽園だったのです。

古い時代のNZに飛来した鳥の中から独自に進化した鳥にモア(ダチョウより遥かに大型で全高3~4m)やキウイ(大小かなりの種類が当時は生息、大は小型のダチョウ並)の様に飛ばなくなった鳥も多数居ました。哺乳類等の天敵が全くいない為に飛ぶ事が必ずしも重要ではなくなったのです。この長い鳥類の楽園時代も人間(先住民族のマオリ)が多くなった15世紀頃からは多くの在来種の絶滅が進行しました。

現在も生息しているNZの固有種は鳥類67種、哺乳類2種(共にコーモリ)です。NZの主な固有鳥類としては次の通りです。3種のキウイ、キア&カカ&カカポ等のオウム類5種、パラダイスダックを含むカモ類5種、タカヘ等のクイナ類5種、鶏級のNZハト、モアポークフクロウ、シギ&チドリ類7種、カモメ類3種、ウ類8種、カラス類3種、ムクドリ類3種、その他23種です。一見すると多種多様に見えますが、多くが絶滅寸前です。


  2-2.NZ建国の歴史。
白人でNZの土地を発見したのは1642年オランダ人のエイベル・タスマンです。先住民族のマオリでさえその原点は1000年程前、メインとしては14~15世紀頃にカヌーに乗ってやって来たポリネシア人です。

その後タスマンから100年以上過ぎた1769年イギリス人ジェームズ・クックが島全体の調査を行いました。この調査の結果がヨーロッパにもたらされると捕鯨やアザラシの毛皮ハンターの遠征が始まりました。1830年代前半ロンドンに植民地会社が組織されると移民は更に増加しました。1840年イギリスは先住民族マオリとの間にワイタンギ条約を締結し直轄植民地としました。1850年頃ゴールドラッシュで移民は更に増加しました。1907年イギリス連邦内の自治領となり事実上独立しました。


  2-3.現在のNZの狩猟動物の先祖。
それでは現在のNZのゲームハンティングの対象となっている哺乳動物達は何時頃に何処から来たのか? それは1770年頃キャプテン・クックが将来難破してNZに流れ着くかも知れない水兵達の食料として余剰の猪やヤギを放った事に始まります。

我々が関心のある鹿に付きましては1851年南島ネルソン周辺に初めてレッドディア(赤鹿)が放されました。この時に放された鹿は残念ながら増えませんでしたが、1861年以降50年以上に渡り世界各地から各種の鹿をはじめ猪、ヤギ、ヒマラヤンター、シャモア、ワラビー(小型のカンガルー)、ポッサム(フクロネズミ)など数多くの動物がNZの各地方に放され、この時点でNZの旧生物体系は殆んど破壊されました。同じ頃キングサーモンやレインボウトラウトやブラウントラウト等の魚類も各地の川に放されました。

ヨーロッパからは赤鹿とファロー鹿(日本鹿クラスで角の先側半分がヘラ状)、アメリカからはエルク、東南アジアからはサンバー鹿(体はエルク級だか成獣でも2段角)とルサ鹿(日本鹿クラスで細長い2段角が特徴)、そして満州からシカディアが持ち込まれ自然繁殖に成功しました。NZには捕食動物が殆んどいない事や人口が少ない事もあり、それらの動物は劇的に増え続けました。しかし北米からのエルクは南島の一角でしか繁殖しておらず、ムースは成功しなかった様で、また乾燥地帯に住むビッグホーンシープやヤギの類であるアイベックスもNZに適応出来なかった様です。

鹿は英語でDeerですが日本鹿は英語でもSikaでシカディアとも言います。本来は大陸との陸続きが切れた時期に取り残された大陸系の鹿が日本で亜種になったと言うのが正しいのですが、ヨーロッパにはこの日本の鹿が最初に紹介された為にこの様な名前が付きました。このNZのシカディアは満州からの鹿ですからエゾ鹿とはかなり近縁です。

白人は元々狩猟民族ですから日本人とは比較にならない位にハンティングが大好きですが、ヨーロッパの良い猟場は貴族に独占されていて平民は十分な狩猟が楽しめません。移民達はこのNZに自分達の理想の国を作ろうとしましたが、その一環の中でハンティングの楽園も作ろうとしたのではないかと思います。


  2-4.現在のNZのハンティング制度に至るまで。
1931年、政府は増え過ぎた哺乳動物の駆除を決定し、駆除の為に多数のプロハンターが雇われました。またプロハンター育成の為に国立のハンター養成学校も作られました。

駆除は1960年代以降にガンシップと呼ばれるヘリコプターの登場により大きく変わりました。今まで人間が入り込む事が出来なかった険しい山岳地帯でのハンティングが可能になり、出撃毎に大量の鹿を仕留められました。そしてその大量の肉はヨーロッパ各国に輸出される様になりました。

1970年代後半にこの好評な鹿肉輸出を事業化する為の養鹿業が紹介された事によりNZの状況は一変しました。それまで鹿はたった数百ドル/頭の価値しかなかったのですが、生きた状態なら数千ドルで取り引きされる様になったからです。ヘリコプターの運用は駆除から捕獲へと変わり、数年後には100万頭以上の鹿がNZ各地のファームで飼育される様になりました。

少し時代が前後しますが、1920年以降にハントされた世界中で最も素晴らしい赤鹿とエルクのトロフィーの殆どはNZで狩猟された物でした。1970年代以降になりますと国際線ジェットの普及でそのビッグトロフィーを求めて主にアメリカ人が大挙してNZに押し掛けました。その結果トロフィーの価値は数倍~10倍にまで跳ね上がってしまい、一時期のゴールド級赤鹿トロフィーは15000ドル以上にまで跳ね上がりました。

一方乱場の狩猟では1970年以降ハンターが多くなって鹿が場馴れしてしまい、特別な奥地に行かない限りBigトロフィーの可能性は無くなりました。日本のエゾ鹿は積雪により大移動しますがNZの鹿は1年中ずっと緑が枯れる事が無い為に全く移動せず、その為すぐに場馴れしてしまったのです。そこで養鹿業者の中には養鹿された鹿の1部を広大な私有地に放し狩猟対象としてハンターを呼び込み始めました。こう言う形をファームのサファリと言います。

この傾向はやがてNZだけに留まらずアフリカやアメリカ国内に於いても行われる様になりました。ワイオミング等ではファームによるエルクサファリと共に国立公園内の野性のエルクにも冬期には餌を与えて保護し、ハンティングを地域上げての積極的なビジネスとする動きが出始めたのです。

この方式は妥当な価格で外れが少ない事からやがて世界中の狩猟の基幹(赤鹿、エルク、そしてクドゥやオリックス等のアフリカのメインゲームに対して)をなすまでに育ちました。
柵の中と言ってもそれは1辺が数十kmもあり、実質は柵の存在を全く感じさせません。

また柵に中だから撃つのはイージーかと言うと決してそうではありません。実際に2010年のNZで赤鹿とファロー鹿を筆者がハンティングした時のデータでは1.5日で11回アプローチしましたが発砲には3回しか至れませんでした。(捕獲ドギュメント5-番外編参照。)

さて話を元に戻し、その後2008年のリーマンショック以後になりますと世界的に不景気の風が吹きNZのこの業界の風向きも大きく変わりました。鹿肉等の相場が低下し以前は牛や羊の牧場を鹿に換える人も多かったのですが、再び元に戻す人や牧場その物を辞める人も出て来ました。

ファームに於いてもトロフィー級の鹿に育つまでは8年以上が必要ですが、一方で鹿自体の寿命が10年余しかありません。つまりトロフィーとしての価値も僅か数年間しかなく、この間に客が付かなければ殆ど価値が無くなってしまいます。
と言う事でリーマンショック以降このトロフィー価格は元の妥当な価格に向かって下がりつつあるのが現状で、それは我々ハンターに取ってもうれしい方向です。

NZに於いてファームではなく純野性の鹿のトロフィー級を捕獲する方法が無いではありませんが、その場合はヘリで奥地まで飛んでそこで約1週間のキャンプを行います。ファームに於ける捕獲成功率は100%までは行かないにしてもそれに近い相当な高率になりますが、純野性のトロフィー級の成功率はそれなりの諸条件をかなり良い側に揃えても半分前後と言われています。

自然物の捕獲が高費用でしかも長期間を必要とし、その上で捕獲成功率が低いとあればファームの鹿の側に人気が出るのは当然です。なおファームでは肉用の鹿もサファリのトロフィー用の鹿も共に100%自然繁殖&放牧ですから実質的に純野性の物との差は殆んどありません。少々違う点はより大きなトロフィーになる様に多少品種改良がされている事、又サファリは数量管理がされており足りなくなれば補充が行われる事の二つです。

人によってはファームの狩猟を毛嫌いする人もいます。またガイド付きのハンティングを否定する人もいます。自宅周辺の限られた場所で限られた種類の獲物だけを相手にするのならそれでも構いませんが、その枠を超えてより大物を求めて遠征をすればガイドの存在はその効率を大幅に高めてくれますし、ファームの利用も悪い話ではなくなります。
なおNZを含む全ての外国では日本の様に他人の土地でハンティングする事は出来ませんので日本人にとっては結果的にガイドハンティングオンリーとなります。




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Posted by little-ken  at 11:34 │海外狩猟